研究概要 |
青潮は底層の硫化水素を含んだ海水が湧昇し,酸化されて生じるコロイド状流黄によって起きる呈色と考えられている。しかし,東京湾以外の海域では硫化水素を含んだ水が沸昇しても透明度の高い硫化水素を含んだ水として観察されるのが一般的である。つまり,東京湾では他の水域に比較して硫化水素が酸化される速度が速いということを意味する。この原因として,重金属イオンによる硫黄酸化反応の触媒作用を仮定し,青潮で考えられる濃度の硫化水素と酸素を人工海水に溶解させ,実験室内で触媒活性を各種重金属イオンについて測定した。初期20分間の反応は硫化水素と酸素が反応して元素状硫黄が生成する反応で想定される3次の反応速度式によく近似された。この反応速度定数に基づいて触媒作用の比較を行ったところ,FeとNiの触媒作用がMn,Cr,Co,Zn,Pb,Cu,Cd,Alに比較して強いことが分かった。また,東京湾沿岸水も同様の触媒作用を有し,定量分析により高い濃度のNiが検出されたことから,東京湾の青潮形成には重金属イオンによる触媒作用が関与する可能性が示された。 また,青潮として表層に現れないため観測されないが,硫化水素の溶存する層と酸素の存在する層との境界付近で通常の青潮と同様の反応によってコロイド粒子が生じている可能性がある(中層青潮)。この観測によって青潮の発生していない水域には中層青潮らしい濁度極大が存在していること及びそれに伴うように光合成細菌の存在する層が観測されることが明らかになった。光合成細菌の色素定量法の開発を試み,光合成細菌の色素等の観察結果から青潮形成のメカニズムが,光合成細菌の種類とその存在量によって説明される可能性が示唆された。今後は,光合成細菌の同定を詳細に行いつつ,その分類群毎の硫黄代謝と青潮形成との関連を培養実験と現場分布から示してゆきたい。
|