研究概要 |
環境中から有害有機化合物を除去する方法として,有害物質の分解に高い能力を有する微生物を利用したバイオレメディエーション技術が注目されている。一方,薬物代謝酵素として知られているチトクロームP450には種々の分子種が存在し,その中には広い基質特異性を有するものもあることから,細菌の生産するP450を有害有機化合物の分解に利用できる可能性が示唆される。 本研究では,8種類のP450誘導剤を単一炭素源として添加した培地を用いて,P450生産細菌を環境中から分離することを試み,2-ethoxyphenolを単一炭素源とした培地で6株,camphorを単一炭素源とした培地で1株のP450生産細菌を分離した。このことから,P450生産細菌は環境中に広く分布していることが明らかとなり,環境中における有害有機化合物の分解に細菌のP450が関与していることが示唆された。 7株のうち,2-ethoxyphenolを単一炭素源として生育したときにP450を生産するEJ株について基礎的検討を行った。EJ株は4-ethoxybenzoic acidで生育したときにもP450を生産していたが,その他の生育基質で生育したときにはP450を生産していなかった。P450の生産量は対数増殖期後期に最大となり,定常期になると急激に減少した。EJ株の無細胞抽出液を用いて,排水基準が定められている物質を中心に13種類の有害有機化合物の分解活性を検討した結果,benzene,xylene,toluene,1,3-dichloropropene,carbon tetrachloride,1,1,1-trichloroethaneが代謝されることが明らかとなった。 EJ株の生産するP450をゲルろ過及び陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて部分精製した。P450の分子量は約45,000Daであることが明らかとなった。本研究で得られた結果は,有害物質の微生物分解を検討する上で有用な知見である。
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