研究概要 |
徳島県沿岸で採集したAncorina属海綿のメタノール抽出物から活性物質1を単離し、アンコリノシドAと命名した。アンコリノシドA(1)は,HRFABMS,各種2D-NMRスペクトル等から,N-メチルテトラミン酸構造をもつ新規配糖体であることがわかり、絶対配置をも含めてその構造が,(5R)-5-カルボキシメチル-3-(22-O-(β-D-グルコピラノシル-(1→4)-β-D-ガラクトピラノシルウロン酸)-1-ヒドロキシドコシリデン)-1-メチル-2,4-ピロリジンジオンであることを明らかにした。アンコリノシドA(1)を0.4μg/ml以上の濃度でイトマキヒトデの受精卵に加えると,イトマキヒトデの胚発生に対して128細胞期までは全く影響を与えないが,256-512細胞期すなわち胞胚形成の段階で胚発生を選択的に停止させた。化合物1は,10μg/ml以下の濃度では,がん細胞(L1210,K-562,MOLT-4)の細胞増殖に影響を与えないことからも,選択性の高い細胞機能阻害物質であることが示された。 一方,宮崎県及び愛媛県で採集した海綿のメタノール抽出物からは,イトマキヒトデの胚発生を胞胚期で停止させる活性物質として2-アミノアデノシン(2),2′-デオキシグアノシン(3)及びチミジン(4)を単離・同定した。これら活性物質(2)〜(4)は,イトマキヒトデ受精卵の発生を胞胚期で選択的に停止させ,その半数阻害濃度(IC_<50>)はそれぞれ2,3および5μg/mlであった。また,鹿児島県で採集された海綿のメタノール抽出物からは,同様な阻害活性を示す物質としてオンナミドA(5)を単離・同定した。オンナミドA(5)は,2μg/ml以上の濃度でイトマキヒトデ胚の発生を胞胚期で停止させた。分裂溝が正常に出来ないため,細胞質分裂が出来ないようであったが,核の複製は認められた。以上のように,棘皮動物の胚発生に対する選択的阻害活性を指標として生理活性物質を探索することによって,特異な化学構造を有する新規生理活性物質を見出すことができた。
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