研究概要 |
本研究では大・中員環を有する生理活性テルペノイドに頻繁に出現するグリコールあるいは水酸基の立体化学を,環形成と同時に制御する方法論の開発を検討した。特に,環形成反応にはジアルデヒド前駆体の低原子価チタンによる分子内ピナコールカップリング反応を用い,その際反応部位に近接する水酸基の有無が生成するグリコールの立体化学に及ぼす影響を解明することと,そこで得られた知見を生理活性テルペノイド合成に応用することを目的とした。 まず,ドラベラン型ジテルペノイドであるクラビュジオール(1)を標的化合物として設定し,反応部位に近接する水酸基の保護基の有無が及ぼす影響について調査した。1は10,18位に水酸基を有するが,このうち10位水酸基が環形成時に生成し,18位水酸基はその際隣接基として立体化学制御に関与してくると考えられる。後者をメトキシメチル基で保護した前駆体を環化すると,9α,10α型のジオールが得られた。実際,9位水酸基を還元除去することで10-エピクラビュジオールの全合成を達成した。一方,18位水酸基の保護基をはずして環化すると立体選択性は逆転し,9α,10β型ジオールを主生成物として与えた。隣接水酸基の関与が環形成時の立体化学を制御し得ることが明らかである。 次いで,フシコクシン型ジテルペノイドであるコチレノール誘導体合成に本手法を適用することを試みた。本骨格をピナコール型環化反応を用いて構築すると非天然型の8α,9β型トランスグリコールが得られるが,15位に水酸基を導入することでその選択性の逆転が達成できると期待されたからである。しかし,環化前駆体において15位水酸基が9位アルデヒドと堅固なヘミアセタールを形成し,環化反応自身が進行しにくいことが明らかとなった。今後水酸基の位置を19位に移すことでこの問題を克服すべく検討を重ねる予定である。
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