研究概要 |
本研究はパン酵母による不斉還元を不斉導入法として,各種の光学活性天然物を合成することを目的としたもので,平成8、9年度に以下に述べる成果が得られた。 1.強力な細胞毒性と八員環ラクトンを有する天然物オクタラクチンAの合成を検討した。(-)-シトロネロールから出発し、パン酵母還元、不斉ジヒドロキシ化、立体選択的ヒドロホウ素化等により、Buszekらが天然物に誘導している合成中間体を効率よく合成することに成功した。 2.第一級水酸基を末端オレフィンに変換する非常に簡便な方法を開発した。アルコールをベンジルエーテルにし、n-BuLiで処理するだけで高収率でオレフィンを得ることができ、上記のオクタラクチン合成でその有用性を実証した。 3.立体構造が決定されていなかったトリテルペンエーテルのクァシオールAの不斉合成を行った。パン酵母還元を鍵段階として3種のジアステレオマ-を合成し、それらのスペクトル、旋光度等を比較して天然物の絶対配置を推定した。 4.強い細胞毒性をもつ鎖状トリテルペンエーテルのオイリレンの不斉合成を検討した。パン酵母還元を不斉導入法として得られた同一の中間体から1段階の反応で左右の合成ユニットを構築することに成功した。現在両ユニットの結合法を検討している。 5.当初予定していたゾアパタオールの合成が期待通りに進まなかったので,そこで得られた成果を参考にしてヒトデの原腸形成を強く阻害するヒッポスポンジン酸の不斉合成と絶対配置の決定を検討した.これまでにラセミ体の合成によって合成経路を確立することができ,現在パン酵母による不斉還元を用いて,光学活性体の合成を鋭意進めている.
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