研究概要 |
L-2-ハロ酸デハロゲナーゼは、L-2-ハロ酸の加水分解的脱ハロゲン反応を触媒する酵素で、L-ハロ酸のみを基質とし立体反転を伴ってD-ヒドロキシ酸を生成する酵素(L-DEX)や、D,L-両ハロ酸に作用するもの(DL-DEX)などが見出されている。本研究では、酵素タンパク質の分子進化の解明に資することを目的に、Pseudomonas sp.YLのL-DEXとPs.putida AJ-1のDL-DEXの構造と機能の解析を行った。L-DEXとヒドロキシルアミンを基質存在下で反応させた場合、酵素の失活が認められた。失活酵素のイオンスプレー質量分析装置などによる解析から、Asp10が修飾されてアスパラギン酸β-ヒドロキシム酸カルボキシアルキルエステルが生成している可能性が示された。この結果は、水よりも求核性が高いヒドロキシルアミンが、水分子の代わりにエステル中間体を攻撃し、Asp10が修飾されて酵素が失活することを示唆し、L-DEXの反応では、Asp10が求核性触媒基をして基質a-炭素に作用し、エステル中間体が形成されることが予想された。またAsp10近傍のAsp180の変異酵素であるD180Nと基質を反応させ、質量分析を行ったところ、変異酵素では基質に相当する分子量の増加が見られた。タンデムMS-MS解析により、この増加はAsp10の修飾に伴うことも確認され、Asp180はエステル中間体の加水分解反応に関与することが判明した。一方、本研究ではDL-DEXをコードする遺伝子の全一次配列を明らかにするとともに、DL-DEXと一次構造上の相同性を示すD-2-ハロ酸デハロゲナーゼとの間で保存されている26残基の極性アミノ酸の部位特異的変異を行い、DL-DEXのThr65、Glu69、Asp194が、D-,L-どちらの基質との反応についても必須であることを明かにした。
|