研究概要 |
アミノ基転移酵素は2つのアミノ酸基質間のアミノ基転移反応を触媒する。大腸菌アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AspAT),芳香族アミノ酸アミノ基転移酵素(AroAT),分岐鎖アミノ酸アミノ基転移酵素(BCAT)などは,酸性基質に対する反応性は似かよっているが,疎水性基質に対する反応性は異なっている。蛋白質工学的解析より,これらの酵素は酸性基質用と疎水性基質用の2つの基質結合ポケットを持ち,基質によって2つのポケットを使い分けていることが明らかになった。このように2つの性質の異なる基質結合ポケットを使い分けるのは,アミノ基転移酵素のみならず,転移酵素一般に広く使われている酵素設計原理と考えられる。この「1酵素-2基質」酵素の分子設計原理を詳細に解析するために,立体構造および機能解析に適した高度好熱菌Thermus thermophilus HB8由来のAspATの遺伝子をクローニングし,DNAの塩基配列を決定し,酵素量産化のためのプラスミドを構築した。精製して得られた高度好熱菌AspATは非常に安定で,pH7では90℃まで安定であり,25℃ではpH2-12の領域で安定であった。この高度好熱菌AspATの分子全体の揺らぎは,常温生物の酵素よりも少ないことが明らかになった。常温生物のAspAT同様,塩基性の酸性基質結合用ポケットに,酸性基質のCOO^-が酵素結合した。ところが意外なことに,疎水性アミノ酸基質認識部位は,常温生物の疎水性基質結合部位よりも揺らぎが大きく,疎水性基質に対する基質特異性が広いことが明らかになった。このような疎水性基質に対する高度好熱菌酵素の広い特異性は,高度好熱菌の遺伝子数が常温生物よりもはるかに少なく,数少ない種類の酵素で多くの種類のアミノ酸のアミノ基転移反応を触媒する必要があるためと考えられる。
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