研究概要 |
われわれが体系的なスクリーニングによって分離したpeg3,peg5(paternally expressed gene)は脳で特異的に発現するインプリンティング遺伝子である。peg3は新規の遺伝子で、分子量180K、非常に特殊なC2H2typeのzinc finger motifを持つzinc finger proteinをコードしており、特殊な役割をもつDNA結合蛋白質として機能していることが予想された。一方、peg5は脳で特異的に発現するNeuronatin遺伝子と同一であり、発生初期にはrhombonmere3,5のみで発現が開始し、次第に脳を含んだ中枢神経系全体で発現が見られるようになる。申請者はこれらの遺伝子の神経系における機能を解析する目的で、mRNAのin situ hybridization、蛋白質に対する抗体を用いた免疫染色を行い、peg3蛋白質が成体期のすべてのニューロン細胞と一部のグリア細胞の細胞核に存在することを確認した。また、ヒトにおいてはPEG3遺伝子がヒト脳腫瘍(グリオーマ)の発生に関してガン抑制遺伝子として機能していることを、ヒトグリオーマ培養細胞株にPEG3遺伝子を導入する実験から明らかにした。以上の結果から脳で発現するインプリンティング遺伝子の重要な機能の一例を示すことができた。 本研究のもう一つの重要な成果は、これらの脳特異的な発現を示すインプリンティング遺伝子の発現部位の詳細な解析から、これまでに発見されている全てのインプリンティング遺伝子に共通する発現部位として胎盤組織を確定できたことである。この胎盤で見られる発現が当該遺伝子にインプリンティングが掛かっているかどうかと関連性が高いことから、われわれは哺乳類にのみ見られる遺伝子発現制御機構であるゲノミック・インプリンティングの生物学的意義は胎盤形成にあるという新しい仮説(新胎盤仮説)を提唱している。これにより、ゲノミック・インプリンティング研究に新しい視点を導入できたと考えている。
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