研究概要 |
天然蛋白質の構造安定性に対する蛋白分子表面解離基間の静電相互作用の寄与を調べるために,昨年度に引き続き計算と実験の両面から研究を進めてきた。具体的には以下の通りである: (1) 計算科学的研究:分子表面の解離基電荷を部分的に中性化した静電変異体にして,差分ポアソン・ボルツマン方程式を解いてクーロン・エネルギーU_c評価する。この「部分的中性化解析」法をシトクロムcとユビキチンに適用して,以下の結果を得た:(1)中性pH,低イオン強度下では,部分中性化したマグロ・シトクロムcのU_cの分子種に関する平均値Uは,中性化数nの増加と共に初めは減少し,正味電荷が+3のn=6で最小値に達してから,増加に転じる。この予測は,nの増加に伴って,解鎖状態からMG状態への移行が実験的に観測されることと良く一致している。(2)高イオン強度下では,U_cの分布は明瞭なピークをもつと共に,U^^-はnの増加と共に単調に増加する。これは,塩イオンの遮蔽効果により近接イオン間の相互作用の寄与,特にLys13-Glu90,Lys53-Asp50間のイオン対の寄与が,相対的に大きいためである。(3)ユビキチンについての解析から,酸性と塩基性残基の中性化の効果は,ほぼ同じであることが分かった。 (2) 実験的研究:アシル化によって部分的に中性化したシトクトムcの試料を,nで分離精製し,n=3〜5に対する熱容量関数C_P(T)を,高感度示差走査熱量計(DSC)により測定した。(1)修飾体の熱転移に伴うC_P(T)の熱吸収ピークは,天然蛋白質のそれより広幅化するが,これは,中性化部位の違いにより静電エネルギーの異なる分子種が存在することに因ると思われる。(2)C_P(T)は,転移域より高温で急減するが,これは試料濃度に依らず,何らかの分子内凝集的相互作用が起きている可能性を示唆している。
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