研究概要 |
骨格筋細胞の最終分化にともなう細胞融合は,細胞膜上に存在する融合ペプチドをもつ蛋白質により引き起こされ,この蛋白質から生じた細胞内シグナル伝達が細胞融合またはそれにともなう現象を調節していると考えられる.本研究では,この細胞融合のシグナル伝達経路を明らかにする目的で,つぎの3つの項目について研究を行った.(1)融合ペプチドとの相同性をもつ新規の膜蛋白質ermelinの局在を,エピトープタギング法およびermelinに対する抗体を用いた免疫傾向顕微鏡法で調べた.いずれの方法でもermelinは小胞体に局在していることが示された.さらに免疫電子顕微鏡法により,ermelinは小胞体膜に局在していることが明らかになった.Ermelinは融合ペプチド相同配列をもつので,小胞体膜の融合に関与しているかどうかを調べている。(2)筋細胞融合を誘導すると考えられているmeltrin αの細胞質部位にはSH3部位結合のコンセンサス配列が4か所存在する.この細胞質部位にSrc,Yes,Grb2のSH3部位が結合することが,大腸菌に発現させた組換え蛋白質と脳抽出物中の蛋白質の結合実験から示された.したがってmeltrin αはこれらの蛋白質との相互作用を介して,筋細胞分化にかかわる何らかのシグナル伝達を生ずると考えられる.(3)細胞融合のシグナル伝達経路を明らかにする目的で同定した新規の低分子量G蛋白質M-RasとRhoDの細胞機能を,cDNAのトランンスフェクションと組換え蛋白質のマイクロインジェクションにより調べた.M-Rasはマイクロスパイクの形成やストレスファイバーの消失など,アクチン細胞骨格の再構成を引き起こし,樹枝状の細胞形態をもたらした.また神経細胞分化を引き起こした.RhoDはストレスファイバーの消失を引き起こし,細胞運動を抑制した.また細胞質分裂を阻害することにより,多核体形成をもたらした.これらが細胞融合のシグナル伝達経路に関与するかどうかを調べている.
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