研究概要 |
1.(1)EGF-Rチロシンキナーゼにより、Shcを基質としてin vitroでリン酸化させ、二次元マッピングを行い、Shcの主要なチロシンリン酸化部位は、Y239,Y240,Y317の三つであることを明らかとした。これは、in vivoにおいても確認した。Shcを介する経路を選択的に活性化する、自己リン酸化部位を欠失したEGF-R変異体発現細胞に、Y317FShcまたY239/240FShcを発現させると、EGFによる増殖刺激がはいらなくなった。Ras/MAPKの活性化は、Y317FShc発現細胞は起こせなくなったが、Y239/240FShc発現細胞は、十分に起こせた。一方、C-mycの誘導は、Y317FShc発現細胞は、十分に誘導できたが、Y239/240FShc発現細胞は、抑制されていた。 (2)我々は、IL-3によるアポトーシスを抑制するシグナルに、Shcが関与するという結果を得ていたので、見い出したリン酸化部位の関与を調べるため、IL-3依存性BaF/3細胞にShc変異体を発現させた。Y317FShc発現細胞は、アポトーシスを十分に抑制したが、Y239/240FShc発現細胞は、IL-3存在下でもアポトーシスに陥りやすく、c-mycの誘導が抑制された。現在、その下流を解析中である。以上より、Shcの新しいリン酸化部位Y239/240は、EGFによる増殖、またIL-3によるアポトーシスの抑制に重要な未知のシグナル伝達系を活性化し、一部にはc-mycの誘導を起こすことを明らかとした。現在、tet systemにて誘導的にShc変異体をPC12細胞、A431細胞に発現させ、解析している。 2.ShcととEGF-Rキナーゼドメインとの融合遺伝子(ER-S)を作り、Grb2との相互作用を、yeast-two hybrid法により調べ、相互作用が起きることが示された。このことは、ER-SのShcの部分が本来の部位にリン酸化を受けており、リン酸化したShcと相互作用する分子を固定することが可能であることを示す。ER-Sをbaitにして、human fetal cDNA libraryをスクリーニングし、新規分子をクローニングし、解析中である。 3.様々な組織での発現を期待できるCAGプロモーターの下流、またCre-loxシステムにより全身、さらに部位特異的に発現させられるベクターにY239/240/317F She cDNAをつなぎ、トランスジェニックマウスを作製中である。 4.Shcは、増殖因子だけでなく、様々なリガンドによりリン酸化されることが報告されてきている。我々の見い出した未知のシグナル伝達系がこれらの系において、また個体レベルで、どのような役割をもつのか、またそこに関与する分子はどんなものであるかが、現在注目され、重要な課題になっている。
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