研究概要 |
筆者らは,遺伝的に大きく異なる2つのメダカ近交系(Hd-rRとHNI)の間で戻し交配を繰り返し,HNIのY染色体をHd-rRに導入したY-コンジェニック系統(Hd-rR.YHNI)を樹立した。この系統のY染色体は体色の優性遺伝子Rや既知のDNAマーカーによってX染色体と判別可能なほか、潜在的に多くの遺伝子マーカーをもち、メダカ性染色体の遺伝的解析に大変有用である。ENUによる突然変異誘発処理の後,遺伝的性と形態的・機能的性との照合により性決定遺伝子領域の突然変異個体の探索を試みた。 1. XY雌をYコンジェニック系統の正常XY雄と交配しYY雄を得た。YY雄の判別にはX染色体とY染色体の間で多型を示す性連関のDNAマーカー、SL1(PCR産物の大きさでX染色体とY染色体の判別が可能)を用いた。このYY雄をENU処理し正常メスと交配することにより性決定に関わる突然変異のスクリーニングを試みた。 2. XYまたはYY雄を1mM,2mMのENUで処理したところ2mMではかなり死亡率が高かった。また、処理後2週間は優性致死率が高いが、それ以降は低下した。 3. 1mMのENUで処理したXY雄の子孫を746個体得た。391個体の雄はすべてR(+)で,雌344個体はR(-)であった。YY雄をENU処理(1mM)し正常メスと交配した。得られた269個体はすべてRをもつ雄であり,性転換個体は得られなかった。この他,R(-)の雄が得られたが,これらはXXの性転換個体であることが交配実験の結果明らかになった。残る数百個体については判定可能になり次第調べていく予定である。 4. 以上のように,ENU処理雄の子孫1000余個体においては未だ遺伝的な性転換個体は得られていない。推定される突然変異率から判断すると,最低3000個体を得る必要があるので突然変異誘発実験は今後も継続する。
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