研究概要 |
脳の形成プログラムの解明は遺伝子工学の進歩とともに飛躍的に進んでいるが、こと哺乳類の脳の発生に関しては、胎仔への外科的アプローチが容易でないため、授精卵レベルの遺伝子操作や組織培養に頼らざるを得ない状況である。この問題を解決するために、我々は今回、子宮外手術法をもちいてマウス胎仔の脳内に遺伝子を直接的に導入することを考えた。そのような実験系を適応するため、まず、ラット脳の正常形成過程の分子メカニズムを、各種活性分子の免疫組織化学や蛍光標識法などの形態学的手法を用いて調べ、神経接着分子であるNCAM-H、L1、TAG-1、それに脳の発生過程に豊富に存在するコンドロイチン硫酸プロテオグリカンであてるニューロカンとフォスファカンが、発生過程の大脳皮質の層形成と神経回路形成に重要な役割を果たすことを明らかにしてきた(Fukuda,kawano,Ohyama,Li,Takeda,Oohiro,Kawamura,J.Comp.Neurol.1997;川野、川村ら、神経科学大会1997年7月発表済み)。これらの観察結果をもとにして、本研究では、Muneokaら(1986)によって開発された子宮外胎仔手術法をもちいて胎生12〜14日のマウス側脳室内微量注入によって、分子機能や遺伝子発現を操作することで実験的に大脳皮質の形成メカニズムを調べることを試みた。その結果、子宮外手術によって胎仔側脳室内に各種薬物、酵素、抗体、oligoDNAなどを注入し、数日間母体内で生存させることに成功した。本研究の成果は、今後、特定のDNAを脳内に導入することによる、遺伝子の発現増強あるいは発現抑制を可能にするものであり、脳の発生過程における各種遺伝子の機能を特定する方法として、その有効性が注目される。
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