研究概要 |
アルツハイマー病における痴呆の直接的原因は、選択的な神経細胞の脱落である。しかし、その神経細胞死機構に関する知見はほとんど得られていない。我々は、アルツハイマー病で観察される神経細胞死を分子レベルで明らかにすることを目的として研究を行っており、今回、細胞内情報伝達分子JNK3に特異的に結合するタンパク質の同定・分子クローニングを行った。ヒトJNK3は、1995年Mohitらによりクローニングされ、正常者脳の特定領域-アルツハイマー病において選択的神経細胞死が認められる海馬CA1や新皮質3,5層などの錐体細胞-が主な発現部位である。酵母two-hybrid法を用いて脳cDNAライブラリーをスクリーニングしたところ、2個のポジテイブクローン(BP♯2,BP♯8と命名)を得た。JNK3と同様、脳で非常に高い発現を示したBP♯2に注目してさらに解析を進めた。新規蛋白タンパクBP♯2は、in vivoにおいてJNK3と特異的に結合し、JNK3の基質にもなることが明らかになった。JNK3によりリン酸化されたBP♯2は、JNK3に対する結合能を失う。またBP♯2は、SEK1(JNKキナーゼ)との結合能も有し、その結合部位はJNK3結合部位とは異なっている。さらにBP♯2は、酵母スキャフォールド蛋白STE5とアミノ酸レベルで22%の相同性を示す。以上の結果から、BP♯2はJNK3カスケードにおけるスキャフォールド蛋白として働いていると考えられる。またBP♯2/JNK3複合体は、JNK3によるBP♯2のリン酸化により解離すると推察される。
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