研究概要 |
本研究の本来の目的である学習・記憶異常突然変異体の電圧固定法による電気生理学的実験は、実験機器の納入時期やソフトウェアーを含めたシステム構築の遅れ(別紙製造会社の詫び状を参照)などから大幅に遅れ、まだ報告するだけの結果が得られていない。旧来からある細胞内電位記録装置によって筋細胞の細胞内記録を行い、神経刺激によって誘発される興奮性接合部電位(EJP)を記録した限りではlinotteと野生型(CS)の間には違いが見いだせなかった。なお、研究目的とは異なるが、現有機器を用いてNaチャネルミュータントの解析を行ったのでここに報告する。 Naチャネルをコードする遺伝子paraの温度感受性変異体および野生型の3令幼虫の神経筋標本を用いて神経刺激によって誘発されるEJPを筋細胞から記録し、神経繊維における活動電位の有無を判定した。para^<ts1>では25℃でEJPが発生したが、37℃では完全に消失し、高温下では活動電位が発生しなくなることを示した。para^<ts3>では37℃でブロックされるばあいとされないばあいがあった。しかし、para^<hd838>とCSでは37℃でブロックされなかった。活動電位ブロックの温度感受性はpara^<ts1>>para^<ts3>>para^<hd838>≧CSとなった。この結果は3令幼虫の高温麻痺の温度感受性シリーズ、para^<ts1>>para^<ts3>>para^<hd838>=CS(Tanaka et al.,1997)とほぼ一致する。さらに、高温下でpara^<ts1>にKチャネル阻害剤のTEA(10-20mM)を投与したところ自発性の神経発火によるものとみられるEJPが現れた。また神経刺激による誘発EJPも1例で観察された。すなわち、活動電位の温度感受性ブロックはTEAによって回復した。この結果は、paraではNaチャネルの密度が小さくなっているのでNaチャネルとKチャネルのバランスが崩れ、その結果高温麻痺が起こるという仮説(O'Dowd et al.,1989)を支持するものである。なおpara^<hd838>は幼虫では高温麻痺が全く起こらないが成虫では全ての個体が高温麻痺を起こすという(Tanaka et al.,1997)。このことは幼虫と成虫とでは異なった転写物が作られ、それが発生ステージによる高温麻痺の違いをもたらすものと考えられる。
|