研究概要 |
本研究で扱った、オリーブ-蝸牛神経束細胞(OCN)は、その解剖学的位置により、外側と内側のOCN(LOCN,MOCN)に分類される。これら二つのOCNは求心性聴覚伝導路及び聴覚中枢からの投射を受け、蝸牛にフィードバックループ(反射弓)を作り、その機能を調節することが知られている。LOCNは蝸牛に対して促進的に、MOCNの活動は蝸牛に対して抑制的に働くと考えられている。しかしその機能を司るであろうCON細胞から直接電気生理学的な反応を記録した実験はこれまで無かった。申請者等は蝸牛に標識物質を充填。逆行性にOCNを生体染色することによってOCBを染色し、これらの神経細胞からの細胞内記録に成功した。本研究の目的は2種のOCNの電気生理学的特徴シナプス入力の詳細を明らかにし、得られた細胞生理学的事実をもとに、OCNの蝸牛に対する調節機構をよりシステム論的に解釈することにある。実験は、同定したOCN細胞にwhole-cell patch damp法を応用し、電圧、電流応答をそれぞれ記録することによった。結果1,LOCNの静止膜電位は-63.6±4.6mV,n=55、MOCNのそれは-66.7±5.2mV,n=44(mean±s.d.)であった。また入力抵抗はLOCNで445±192MΩ,n=32、MOCNで501±303MΩ,n=28であり、入力容量はそれぞれ、40.2±19.6pF,n=30、35.2±8.9pF,n=25であり、受動的な膜特性には両神経群に差はなかった。2,十分長い脱分極通電刺激を静止膜電位から与えると、両神経群ともにtonicな発火応答を示すが、膜電位を-72から-76mVに過分極させると、大部分のLOCN細胞は脱分極通電によって長いfirst spike intervalの後にtonicな発火応答を示し、MOCN細胞は長いfirst spike latencyの後にtonicな発火様式をとった。3,一過性K電流(A電流)の阻害剤である4-AP(0.5mM)は、LOCNの長いfirst spike interval、MOCNの長いfirst spike latencyともに抑制した。4,膜電位固定下において、LOCNには不活性化過程の異なった二種の一過性K電流(A電流t=90ms,t=850ms,at 0mV)が観察された。このうちの速い成分は4-AP(2mM)で抑制されたが、TEA(20mM)で抑制されなかった。一方、遅い成分は4-APでは抑制されず、TEA(20mM)で部分的にではあるが抑制された。速い成分のhalf-inactivation voltage(V1/2)は-72mVであり、不活性化からの回復過程のtは-90mVで観察すると32msであった。5,MOCNにはLOCNよりも速い不活性化過程(t=30ms,at 0mV)を持つA電流が一種類だけ観察され、4-AP(0.5-1mM)で抑制された。この電流のV1/2は-75mVであった。また不活性化からの回復過程のtは-90mVで15msであった。本研究によってOCNの細胞生理学的研究が可能になり、LOCNとMOCNの発火特性の差が明らかとなった。両神経群ともに大部分コリン作動性神経であり、しかも受動的な膜特性、形態に顕著な差がないにも関わらず、その発火様式には明らかな差があった。この差は、生物物理学的特性の異なるA電流の発現によって説明できた。シナプス入力に関しては、日本生理学会にて発表する予定である(Fujino et al.,1998)。
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