研究概要 |
造血機構は近年研究が進み,造血幹細胞についても細胞側受容体c-kitとそのリガンドstem cell factor,さらには接着分子integrinの関与が明確になってきた。しかし,他の因子の研究は不十分であり,造血幹細胞増殖機構の全体像解明は今後の課題である。 常染色体劣性変異体wastedマウスは,生後3週令に達した後,神経系や免疫系,造血系の異常,体重増加停止など,多様な臨床症状をわずか1週間で急激に呈し,死亡する。申請者は,上記の臨床症状が,生後22日令以降の日令に依存して,組織特異的に生ずること(Tezuka et al.,1986;Inoue et al.,1986),特に造血系の異常は,赤血球産生系に特異的であり,前駆細胞CFU-Eに発現していること(Tezuka,1990)を見いだし,異常の原因として,造血幹細胞の異常を推定した。 申請者は,今年度の研究において,前年度の脾コロニー形成法の実験に加えて,wastedマウスと対照群の同腹正常個体との相互の骨髄細胞移植とパラビオーシス手術実験を用いて,造血幹細胞day-8及びday-12CFU-Sの動態と機能の異常を解析した。脾コロニー形成法の実験については,動物の日令は,前年度よりさらに進めて生後9日令より27日令までとした。その結果,骨髄・脾臓の両造血器官において,ともに上記の両幹細胞の数的な異常が,臨床症状が発現するよりはるか前の9日令より発現していることを再確認した。相互の骨髄移植については生後18日,パラビオーシス手術実験については生後12及び18日令で実施した群については,いずれも救命されなかった。このため,さらに実験に用いるマウスの日令を進めて,検討中である。
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