本研究は、狩野元信の絵巻作品について研究することを目的とした。元信の絵巻を広く概観するとともに、北条氏綱によって1522年頃に作られたことが判明しているサントリ-美術館蔵「酒呑童子絵巻」を、絵の享受者や注文主の意識、また絵が制作された社会的文脈から研究することを計画した。 本研究においては、まず、サントリ-美術館において調査した「酒呑童子絵巻」のスライドを整理し、絵を詳細に見ながら、詞書と絵の内容を各段毎に比較し、サントリ-本の絵の特質を考えた。また「酒呑童子」を主題とする絵巻、絵本などは30本にも及ぶ。それらを写真資料を添付したカードとして整理し、サントリ-本と比較した。また、芸術学の学会にも出席し、ヴィジュアルイメージを新たに解釈していくための理論を学んだ。 その結果、鬼退治のストーリーを詞書で語り出すサントリ-本が、絵では、強い男同志の信頼関係や対決を讃えようとしていること、一方、女性は男性のために犠牲となるべきものであることを見せようとしていることが判明した。このような主張が「酒呑童子」という御伽話の絵として描かれている背景には、氏綱が子の氏康のためにこの絵巻を作らせたことが想定された。氏綱は、戦国の世に関東という地方で武士として生き抜く術を、子供が面白く見ることのできる御伽話の絵巻にして、氏康に見せようとしたのではないか。この成果を、学内の研究会において発表した。 尚、狩野元信を考える上で、同じ室町時代に活躍した土佐光信の研究は不可欠である。元信は、江戸時代以降、光信と強く関連させて語られてきており、現在、我々が捉えている元信像は、光信を踏まえずには考えることはできない。この両者の関係を盛り込んだ小論を、「室町時代の土佐派をめぐる言説」としてまとめ、発表した。
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