研究概要 |
ラットやマウスなどの齧歯類で認められる分娩後発情は,父親ではないオスによる仔殺しを,そのオスとの交尾を可能とすることによって抑制する機能を持つと考えられる。本研究は,この可能性を検証するために行われた。Jc1:ICR系マウスオス80匹,メス60匹およびその仔80匹を被験体とした。テスト開始前に,被験体とは別のマウスから採取した血液を,仔に数滴ずつ塗布した。テストでは,個別飼育されているオスのゲージに,生後24時間以内の仔のみ(Pup only群)か,仔と分娩後発情している母親(Post par.群),仔と自然発情の別のメス(Cyclic群)あるいは仔と非発情期メス(Non estrus群)をそれぞれ投入した(各群10ケース)。その後観察を15分間続けた。記録した項目は,オスの仔なめ,仔へのかみつき,メスへのマウントなどであった。なお,仔に対するかみつきが激しく,危険だと判断された場合には,ただちに観察を中止し,仔を元のゲージに戻した。その結果,仔殺しの危険によりテストを中止したのはPup only群の5ケースのみであり,仔なめ頻度やかみつきの生起率もPup only群で他の3群よりも高かった。したがって,仔殺しは母親でないメスを投入するだけでも抑制されることが明らかとなった。メスを投入した3群では,メスへのマウントの生起率にも差がなかった。そこで,3群全てのオスのデータを一旦プールして,メスへのマウントの生起とかみつきの生起との関係を検討したとこる,メスにマウントを示したオスでは仔に対するかみつきが抑制されることが明らかとなった。オスのマウントは,通常であれば発情メスに対して示されるので,この結果はメスの分娩後発情によるオスの性行動の生起がオスの仔殺しの抑制に寄与している可能性を強く示唆するものである。
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