研究概要 |
実験は,3,4,5,6歳児各々51,75,69,23名の計218人が個別に参加した。まず,被験児が他者や自分が抱いている誤信念を理解しているか否かを検査するため,2種類の見せかけの外観課題を施行した。次に,被験児が知識の起源を理解できるかを検査するために,トンネルの中においたものの性質を知るにはその対象物を見る必要があるのか触る必要があるのかを判断させるトンネル課題を4つ施行した。さらに,この心の理論課題の前後に,有意味な線画と無意味図形の各15項目からなる2種類の記憶材料のリストが,各被験児に対して提示された。有意味線画では描かれた具象物の名前を答えさせた。この2つの心の理論課題,2種類の記憶材料の学習ののち約7日後に,先に学習した線画と無意味図形の各15個の旧項目をそれぞれ同数の新項目と混ぜて提示し,被験児に各々の絵もしくは図形を前に見たか否かを判断させる形で,2種類の記憶材料の再認検査が行われた。最後に,各被験児に対して絵画語彙発達調査を施行し,言語年齢が測定された。 分析の結果,2種類の見せかけ外観課題における他音の誤信念の理解は,生後4歳以降に発達すること,自己の誤信念の理解は,他者の誤信念の理解よりも幼児にとっては困難であることが示された。また,トンネル課題における知識の起源の理解は,たとえ5歳になっても完全には発達していないことが明らかになった。さらに,記憶材料の相違に関わらず,エピソード的な再認記憶と心の理論課題の遂行との間に有意な相関が認められた。しかし,記憶遂行と言語年齢の部分相関を取り除くと,記憶と心の理論課題との相関は有意とはならなかった。従って,幼児の心の理論の発達は,エピソード記憶の発達と関連していることが示唆された。しかしこの結果が,言語発達など一般的な認知発達の要因を除いても得られるのかという点については,今後さらに検討を要する課題である。
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