研究概要 |
本研究の目的は,人間の形態知覚における局所的輪郭情報の統合過程の時空間特性を精神物理学的実験によって明らかにし,一次視覚野などの比較的低次の視覚機構の統合過程への関与の可能性を検討することであった.そこで,物理的には散在する複数の図形に過ぎないが,これらの間に存在する間隙が補完されて一様領域に輪郭が知覚されるという現象(主観的輪郭)に着目した.主観的輪郭の一種であるカニッツァの四角形と呼ばれる刺激と同時に,この輪郭上および近傍に別の刺激(プローブ)を短時間呈示し,検出閾を測定する実験を行った.一次視覚野における局所的フィルタリング機構の活動と局所輪郭統合過程との関係を調べるため,プローブはガボアパッチとして,その呈示位置,方位,空間周波数,周波数帯域幅などを実験変数とした.また,主観的輪郭知覚とこのプローブの検出閾との関係を調べるため,誘導図形の大きさ,間隙の距離,コントラストを操作する実験も行った.実験結果から,1)主観的輪郭上で誘導図形とプローブの方位が一致したとき,つまり共線関係を満たす場合に閾値の低下(促進)が大きいこと,2)プローブの空間周波数が低いほど,主観的輪郭近傍での促進が生じる位置は広がること,3)促進はプローブの位相には影響されないこと,4)主観的輪郭の印象が強まる誘導図形の配置関係のときにプローブ閾値の低下も大きいこと,などが明らかになった.結果の1)〜4)は,一次視覚野における局所的フィルタリング機構間の側方性の相互作用として示唆されている特徴とよく類似しており,5)を合わせ考えると,一次視覚野レベルの側方性相互作用が大域的形状知覚のための統合に強く関係することが示唆される.現在,時間特性について検討中である.
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