研究概要 |
聴覚短期記憶内で調波複合音の高さと数詞音声が干渉するのかどうかを確かめるため,心理実験を行った.5秒間の保持期間をおいて提示される二つのテスト音(標準音と比較音)と,保持期間内に提示される六つの挿入音を用いた.テスト音として8成分の調波複合音を,挿入音として8成分の調波複合音および男性話者の数詞音声を用いた.数詞音声の中心的な高さと挿入音として用いられた調波複合音の中心的な高さは,ほぼ等しくなるように設定された.テスト音の中心的な高さは,挿入音の中心的な高さと一致した条件と,それよりも高い条件が設定された.刺激のラウドネスは,2名の被験者で完全上下法による実験を行い,その結果に基づいてすべて等しくなるように調整された.テスト音のみを提示して高さの再認のみを行う条件での成績によって被験者を選抜し,13名中成績の良かった12名を被験者として採用した.これらの被験者の絶対音感の有無をテストしたところ,いずれも非絶対音感保有者と確認された.被験者に(1)テスト音の高さの再認,(2)数詞音声系列の再生,(3)高さの再認と数詞系列の再生の両方,を課題として与え,高さの再認誤り率および数詞系列の再生誤り率を測定した.分散分析による検定を行った結果.テスト音の高さと挿入音の高さの関係が重要で,両者が近い場合に高さの再認誤り率が有意に増加すること,両方の課題を被験者に課すると,単独の場合と比べてどちらの誤り率も有意に上昇し,調波複合音の高さと数詞音声が短期記憶で干渉することが明らかになった.この結果から,音声と非音声の短期記憶メカニズムは特殊化されておらず,両者の間に干渉を起こしうるメカニズムが共有されていることが明らかになった.また,音声と非音声の誤り率の差は,音声の高さが非音声よりもあいまいなために記憶への干渉が小さくなることで説明された.
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