研究概要 |
本研究は,対象として静止した人体像と,運動する人体像を用い,大きさ知覚(身長評価)と形情報の関連について検討した.従来大きさ知覚は形知覚の一部であることが指摘されてきた.最近,木の形情報そのものに,木の高さという大きさ知覚が規定されるというモデルも提出された(Bingham,1993).このモデルに従えば,大きさはみえの距離を斟酌しなくても,相対的に客観的に知覚されることになる.本研究では,このモデルの一般性を人体画像によって検証する.まず静止対象を用い,身長評価がどのような形情報に還元できるのかを検討した.そこで得られた形情報は運動対象でも保持されることから,次に静止対象と運動対象との身長評価値の比較を行った. 実験1の刺激は,男女各13名のモデルの静止画像を正面,側面,背面から撮影した画像である.画像はモデルの実際の身長にかかわらず,画面上で常に一定の高さ(18cm)になるように撮影された.この実験では,まず画像から人物の身長を推定することが可能であるかどうかを検討し,次に身長評価値を規定する形変数にはどのようなものがあるかを調べるために重回帰分析を行った.形変数は人体部位間の比とした.モデルの身長計測は撮影と同時期に行われた.得られた結果はいずれの撮影面でも,べき指数値が約0.6であった.ただしモデルの実際の身長と身長評価値の間には有意な正の相関が認められたことから,ある程度の身長評価は可能であることが示された.次に形変数と身長評価値との重回帰分析を行った結果,頭囲と客観的身長の比という変数が,いずれの撮影面でも有効であることが示された.実験2では,モデルがカメラに向かって歩くか,視野を横切って歩くかの2種の画像を用いて,実験1と同様に身長評価を行った.移動距離はどちらも3mであった.どちらの運動方向においても,結果はべき指数値にして約0.7であった.この実験においても,実際の身長と身長評価値には正の相関があった.身長評価値を説明する形変数は,実験1と同様に頭囲と客観的身長の比変数が得られた.ただし実験1の結果よりも説明力は低下し,得られた変数間の関係は複雑であった. 本研究から,形情報だけでも大きさを評価することはある程度可能であり,特に頭囲と客観的身長の比という形変数が重要な役割を果たすことが示唆された.ただし本研究では剰余変数の統制などに関する課題も残された.また今後は空間視に関するモデルとの関連で,大きさ知覚と形の関係を検討する予定である.
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