研究概要 |
単語認知には先行して与えられる意味情報から形成される予期や期待が大きな役割を果たす。このような先行刺激による効果は意味的プライミング効果と呼ばれ、単語認知に大きな役割を果たしていると考えられてきた。本研究では脳磁場(MEG)を計測し、プライミング効果に関与する脳内部位を検索した。MEGでは神経活動に伴って発生する磁場を頭部外から非侵襲的に測定する。MEGは頭部の複雑な形状による信号の歪みが極めて小さい。そのため、条件が整えば空間的な磁場分布のパタンから活動源の推定を2〜3mm程度の精度で行うことができる。 方法:被験者は右手利き健常者8名(24〜40才、男/女、5/3)。刺激としては四字熟語110個を用いた。各試行、四字熟語を前半(S1)と後半(S2)にわけて提示した。正しい四字熟語が提示されるTrue条件(例、二束・三文、110試行)、誤った組み合わせの四字熟語が提示されるFalse条件(例、二束・方正、110試行)を設けた。脳磁場の測定には37チャネル脳磁場計測型2基(Magnes,BTi,San Diego)を用い、左右の側頭部から記録した。S1、S2の提示時間は500msで、S1、S2の提示間隔(ISI)を1500ms、試行間間隔は3〜5秒であった。 結果:S2に対して出現した脳磁場における条件差を検討した。6人の被験者で、False条件に対してのみ2提示後350-450msに左大脳半球側に明確な磁場成分が認められた。現在までのところ3名の被験者で活動源推定を行った結果、島付近に活動源が推定された。 考察:False条件に認められた左半球の島を中心の活動は、提示された被験者が予め形成した期待とは一致しない刺激の処理に関与する、と解釈した。左半球の島の活動と意味処理、新奇刺激の処理あるいは形態的な処理と関連する可能性があるので、その点については今後、検討していく。
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