幼児期の子どもたちは、遊びのなかでのびやかにありのままの自分を表現しながら、自分の思いや願いを実現すること(自己実現)は重要な課題のひとつであり、それを支えることが保育の課題でもある。しかしながら、子どものなかには思いや願いを抱きながらそれを実現することが難しい子どももいる。 そこで、本研究では、幼児の自己実現の構造はどのようになっているのかを発達的に明らかにすること、さらに保育者は自己実現の難しい子どもをどのように認知し、援助しているか、その援助によって子どもの行動がどのように変容していくのかを明らかにすることを目的とする。 まず、自己実現の難しい子どもを抽出し、日常の保育場面でどのような行動がみられるかを保育者に記録してもらった。その結果、自己実現の構造は発達的に異なり、それに応じて保育者も援助していることが明らかとなった。また、保育者にとって援助が難しい事例は、何もしていないようにみえる子どもである。なぜなら、これらの子どもには、自分の思いや願いを実現できていない子どももいれば、自分なりのイメージをもって遊んでいる子どももいるからである。つまり、外見的には同じようにみえる行動でも、自分の内的状態に満足しているかによって、保育者は援助を考慮しなければならないからである。 また、保育者の援助による子どもの行動の変容については、観察期間が短かったこと、援助を行なってすぐに変化が現われにくいこと等により、著しい変容はみられなかった。しかし、少しずつではあるが、観察開始時よりもそれぞれの子どもなりに自己実現できるようになってきている。したがって、さらなる追跡調査が必要であると考えられる。
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