研究概要 |
全称量化表現文の獲得過程において達成されるべき段階の一つとして、全称量化表現の疑問文の判断領域を適切に行えることが挙げられよう。しかし3-5歳の幼児においては、この能力に知的リアリズムなどの認知的制約がかかっている可能性が考えられる。本研究ではこの点について検証実験を行った。 具体的には全称量化表現疑問文で問う要素について、実際の世界であり得そうな属性を持つものと、あり得そうもない属性のものを用意した。そして後者の要素でも、眼前の状況に限っていえば属性が当てはまる場合に、そのような要素の存在を適切に肯定出来るかを調べた。 実験1では、要素-色の属性関係により可能性の高低が異なる状況を提示した(例;可能性高:赤いはな,可能性低:黒いつき)。その結果、可能性の低い真状況では、肯定出来ない4-5歳の被験児が相当数観察された。実験2では、典型色を持たない要素を、可能性の高い状況として用いた。その結果被験児は、両方の状況に等しく不適切な判断を示した。しかし実験3では、それらの幼児は新奇要素が提示されれば適切に真偽判断を行なった。 以上の実験結果は、4-5歳の幼児は、全称量化表現文の真偽判断において、眼前の要素ではなく既有知識に依存する傾向を示唆するものといえる。従ってこの段階の幼児は、全称量化表現疑問文の応答に、知的リアリズムのような認知的制約を受けていると推察された。
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