研究概要 |
本研究の目的は,平成7年度科学研究費の課題研究(課題番号07710098)の知見を踏まえて,子どもが主体的に体験している能動的な相互交渉過程を解明するために,子どもの言語(思考)および動作の持つリズム性,他者との間に共有されるリズム性に焦点を当て,この2種類のリズムが子どもの自己制御(自己の行為の対象化)の発達プロセスにどのような影響を与え機能的に関与しているのか,そのメカニズムについて検討することである。本研究で行なった実験結果は,以下のとおりである。 (1)感覚運動的要素に意味見的要素を取り込んだ木槌課題[台の上に設定された色の異なる3つの玉を前以て決められた順番で叩く課題(b)]では,子ども一人で叩く個人条件よりも実験者と一緒に叩く相互条件の方が困難である。実験者と一緒に課題を遂行していく相互交渉リズムが,子どもが自己のリズムで課題を遂行していく作業に干渉してしまい,子どもにとっては実験者の教示の意味に従うことと実験者のリズムに合わせることの二重の課題構造となった。 (2)実験者と子どもが一緒にかけ声をかけ合い相互に課題に関わることから生まれる相互交渉リズムは,年少児ほど,子どもの課題へのリズミカルな(同期的)参加を強く促す反面,意味的な要素を全く欠落させた課題遂行を強いる(決められた順番ではなく,子どもの勝手な順番で叩いてしまう)。また, (3)感覚運動的要素よりも意味的要素が強く反映された折り紙課題では,子ども一人ひとりに課題を解決して行くリズム(折り図を見る時間や回数,折り図の読み取りから動作での遂行までの全体的な連動性,試行錯誤の内容やその回数など)があり,その思考や動作のリズムを無視した実験者からの言語・動作的介入は効果的ではない。なお現在は,(1)(2)の結果を踏まえて他の感覚運動的課題を設定し,特に意味的制御の初期形成過程について補足実験を行ない,分析中である。
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