研究概要 |
社会には今どのような意見があり,どの程度の人々が各意見を支持しているのか,社会における諸意見の分布についての推定は個人の価値観,行動選択さらに社会全体の動向に重要な意味を持つと考えられる.堀田(1995)は,男女のあり方という問題をとりあげ,「性」により内集団-外集団を定義し,意見分布推定における集団間効果を分析した.本研究では,堀田(1995)をさらに発展させ,社会通念の認知についての理解を深めていくことを目的とした. (研究1) 堀田(1995)で用いた質問紙に修正を加え,大学生を対象とし,調査を行った.主な修正点は,(1)当該争点に対する関与度(新聞・テレビ報道への接触頻度など)に関する設問を追加,(2)質問紙の最初に簡単な導入文を加え,そこで呈示される情報として,(a)統制条件,(b)格差情報条件(男女間では意識に差があるという主旨の情報を呈示),(c)変化情報条件(男女とも伝統的な考え方は減少しているという主旨の情報を呈示)の3条件を設定. 結果(1)内集団意見と外集団意見に対する分布推定の比較を行った.その結果,堀田(1995)で見られた内集団-外集団効果-集団間での意見格差の過大視-が再確認された. 結果(2)当該争点に対して関与度の低い回答者群では格差情報条件においてのみ集団間の意見格差認知が有意であり,格差情報の影響により意見格差の認識が生じたといえる.一方,高関与群では格差情報がない場合(統制条件)でも集団間での意見格差が認識され,また,格差情報条件でも格差の認識は同程度であった.これは,高関与群にとっては,日頃接触している情報に意見格差を強調しているものが多いため,今回呈示した格差情報の情報量は低く,推定には余り影響しなかったものと考える.しかし,低関与群のみならず高関与群でも,変化情報条件では推定に集団間差が認められなかったことから,変化情報の呈示は,集団間格差の推定を解消する方略として有効である可能性が示唆された.
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