在日コリアンの生活文化における民俗的側面の基礎資料収集のため関西地方に在住する一親族組織を対照に、インテンシブなインタビューと観察調査を実施した。 ・親族会運営に関するインタビューは、調査対象である在日済州島系親族会の会長を中心とした指導者層にたいして行った。内容は近年の運営状況とそれに対する各会員の意識、これからの会運営の方向性についての考え方などである。これらによって在日一世から二世・三世への会運営の世代交代が必ずしも円滑に進んでいないことが明らかとなった。それは〈伝統回帰思考〉と〈在日エスニシティ志向〉とのコンフリクトと言い換えることも可能であろう。またネットワークに関して族譜を入手できたのでこれに基づいたネットワークの解析がこれからの課題となる。 ・一般会員には家庭における祖先祭祀のあり方を中心にインタビューをおこなった。これによって、渡日以降非常に強く守られてきた家祭祀の行事が、一世の死去にともなって様々な形態に変容を開始していることがわかってきた。具体的にはそれは祭祀の〈簡素化〉と同時に、祭祀の分担・祭祀の回り持ちといった形の〈分化〉を伴っており、とくに後者の分化は、伝統的な親族結合の弛緩と、同時に日本社会における核家族化との類似性を想起させる。これらと符号するように、墓碑における家紋の創出が一部で見られる。 ・専用霊園の分析では業者へのインタビューとともに墓碑文の文案にかんする資料を多数入手した。これらの文章や図像に関する内容分析が以後可能となろう。
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