研究概要 |
本研究においては、主に超国家的機関である欧州連合(EU)が,加盟各国とEUに加盟しない欧州経済地域(EEA)諸国とともに1996年をヨーロッパ生涯学習年に指定し,生涯学習の理念の普及に努め,参加各国がすべての市民に対する生涯学習の機会の保障を政策の重点課題としようとする動きに注目した。教育制度のみならず,公財政の配分,雇用制度,福祉制度の改革を含むこの「生涯学習制度化」を促進する要因として,1)地域統合によりもたらされた行政・財政の地方分権化の進展,2)人的移動の自由化,3)インターネットを含む情報メディアの普及,4)人々の学歴・学習経験の多様化/不均衡,5)雇用機会の不均衡等があることを解明し,EU及びOECDで収集されている既存のデータにより各国の特色を比較分析した。また,EUが生涯学習年事業において実施した加盟各国の国民に対する生涯学習に対する意識調査,学習への投資に対する見返りに関する標本調査等から,生涯学習制度化のプロセスに関する新たな分析の枠組みと調査研究の方法論を学んだ。 この研究により,これまで「労働者の継続教育が中心」とみられていた西欧の生涯学習に,学習活動そのものから得られる喜び,人格の発達,余暇の充実,民主主義社会の市民としての自主性の伸長といった観点が付加されつつあることや,生涯学習の基盤としての就学前及び学校教育,学校外青少年教育の重要性が以前にも増して強調されるようになっていることが明らかになった。こうした動きの背景には,日本政府が生涯学習の振興に力を入れていることの影響が強く現われていた。今後は、我が国における生涯学習概念と「生涯学習制度化」の具体的施策のあり方を批判的に考察するためにも,引き続きヨーロッパ生涯学習年事業を題材とし,グローバルな視野から「生涯学習制度化」の方策を考える研究を継続したいと考える。
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