研究課題/領域番号 |
08710210
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研究種目 |
奨励研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
研究分野 |
文化人類学(含民族学・民俗学)
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研究機関 | 静岡県立大学短期大学部 |
研究代表者 |
池上 重弘 静岡県立大学短期大学部, 講師 (50240627)
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研究期間 (年度) |
1996
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研究課題ステータス |
完了 (1996年度)
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配分額 *注記 |
1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
1996年度: 1,000千円 (直接経費: 1,000千円)
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キーワード | インドネシア / スマトラ / トバ・バタック / 墓 / 複葬 / 改葬 / 父系制 / 移住 |
研究概要 |
インドネシアの北スマトラ地方を故地とするトバ・バタック族の社会では、19世紀後半以降キリスト教が浸透したが、盛大な改葬儀礼を伴う複葬慣行が今日においてもその墓制を特徴づけている。本研究では、キリスト教布教以前の墓制を明らかにした上で、故地および移住先の開拓村や都市部で撮影した墓の写真を分析する作業を通じ、トバ・バタック族における墓制の変容を実証的に解明した。 オランダ人行政官およびドイツ人宣教師によって書かれた文献の記載やトバ湖南東岸地域での聞き取り調査から、キリスト教布教以前のトバ・バタック族の墓制において、次の二つの指標が重要であったことがうかがえた。すなわち、1)息子夫婦から生まれた男の孫を持つこと、および2)自殺や産褥死のような「異常死」とされる死に方をしないことである。トバ・バタック社会は父系制の親族原理に従っている。前者の基準は、父系ラインによる系譜継続の条件と理解されており、この条件を満たすか否かよって、葬儀の内容や死去時の一次葬に際して作られる盛り土の墓の形態が異なり、改葬の可否も定められた。「異常死」の場合、死者の霊魂が邪悪な性質を帯びると考えられ、葬儀を経ないで墓地区画のはずれに埋葬された。この場合改葬の対象にはなりえなかった。 今日、故地においても移住先の開拓村や都市においても、死去時の一次葬に際して建立される墓の形態には、上記の二指標による差違は認められない。未婚で死亡した学生の墓が、数多くの子孫を残して天寿を全うした老人の墓より壮麗なことさえある。しかし、オランダ時代から作られはじめ、1960年代以降急増したモルタル塗り改葬墓の内側に遺体を安置する場合、未婚者は排除される。ただし、孫がいない場合でも、息子を持つ死者の棺桶は、将来の改葬を暗黙の前提として、モルタル改葬墓内部に安置されることが多くなっている。
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