(1)韓国地域社会における社会変化と文化伝統の伝承の考察:南原地域におけるライフヒストリー収集と関連資料・聞き取り調査データの整理により、以下のような知見と展望が得られた。1)同地域は植民地統治期の地方行政区画の改編に伴い旧南原・雲峰の二郡が統合されて一つの行政単位を構成するにいたった。今日、婚姻を含めた生活圏・商圏は一つにまとまりつつある反面、儒林のネットワーク・方言圏・地域的アイデンティティでは旧郡の区分に従った差異がいまだ再生産されつづけている。このような差異の存在が同地域における文化伝統の再構築過程や地域活性化の過程にも大きく作用している。2)同地域農村部を構成するマウル(伝統村落)は、植民地統治期ならびに解放後の洞里統廃合にも関わらず、日常生活や儀礼活動における協同の単位ならびに歴史的アイデンティティの形成単位としての連続性を保持し続けている。ただし、マウルをこえた親族・婚姻ネットワークやマウル間の関係についての検討は今後の課題として残された。3)同地域農村部への植民地統治期の農村振興運動や1970年代以降のセマウル運動の影響にはマウルによってかなりの違いが見られる。今後、詳細な事例研究が必要とされる。4)同地域の行政流通の拠点である旧邑内の市場・市街地・娯楽観光施設・祝祭行事の形成発展には激しい変動の過程を見てとれる。(2)現代韓国における文化伝統を活用した地域活性化の調査研究(日本との比較のもとに):宮崎県南郷村ならびに鹿児島県東市来町において一週間の予備的調査と資料収集をおこなった結果、日韓の地域活性化の過程を比較する際に以下のような指標が必要とされることが明らかになった:地域社会の構成・活性化以前の政治経済的状況/活性化の方向性/活性化の主体と単位/資源・資本の分布・意思決定の過程/ソフト・ハード両面にわたる事業内容/地域住民の意識変容。
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