鹿児島県熊毛郡屋久町安房において、夏期(盛漁期)に4週間、冬期(漁閑期)に1週間の、計2回延べ5週間の住み込み調査を行い、移住漁民によって屋久島で開発されたロープ引き漁というトビウオ漁を中心に調査研究した。屋久島に形成された与論島漁民の移住集落と在来の地元集落において、ロープ引き漁における漁法・生態・漁場利用・組織などについて、複数の話者から詳細綿密な聞き取り調査を行うとともに、実際の漁獲行動について参与観察を行った。また、本調査の過程で、鹿児島水産業改良普及所上屋久町駐在員によっておこなわれた「水揚野帳」を発見した。これは、安房港を利用するロープ引きの船主に依頼して、毎日の漁場の位置、潮流の方向、水温、種類別の漁獲量を記載してもらうという方法で行われたもので、1年間の季節変化のなかで、ロープ引き漁の活動をとらえることができるという点、複数の網組で比較できるという点において、貴重であり重要な資料であり、研究に利用した。その結果、漁場利用について、与論からの移住漁民と屋久島漁民を比較すると、漁獲活動において差はみられなかった。このことは、屋久島漁民の側からいえば、ロープ引き漁の受容度が高いということになり、また、移住漁民の側からいえば、屋久島の漁場への適応度が高いということになる。そして、屋久島漁民にとっては、伝統的に行われてきたジキトビ漁というトビウオ漁の衰退後に、ロープ引きに転換させることによって屋久島のトビウオ漁を存続させたのであり、移住漁民は、屋久島のジキトビ漁衰退という時期をとらえて、新しいトビウオ漁を屋久島に導入するとともに、トビウオ漁への専門化を特色として屋久島のなかにトビウオ漁民・ロープ引き漁師という地位を築くことによって、移住を成功させたことがわかった。
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