研究課題について、明治18年の山陽道巡幸における行幸地を対象とした調査研究を行った。岡山・兵庫東部など一部地域において調査の不十分なところを残すものの、主眼であった行幸ルートの踏査および県・市立図書館等での文献資料調査を実施することができ、当該地域について概要を把握することができた。特に現地踏査の結果、山陽道の「聖蹟」すなわち行在所・小休所跡において、記念碑はかなり良好なかたちで保存されていることが判明し、建物についても三田尻の「御茶屋」をはじめ現存しているものがいくつか確認できた。これらについては、写真撮影を含んだ現状記録を行った。 当該地域においては昭和10年が行幸50周年にあたるため、その前後に「聖蹟」化が進行したのではないかと予想された。県や個人による記念誌の刊行などには50周年の影響が色濃く現れていたが、建碑に関してはその影響は余りみられなかった。また、明治18年の「聖蹟」ではないが留意すべき点として、広島においては昭和9年が日清戦争大本営設置40周年にあたるため、記念誌刊行や展覧会開催などが行われた点があげられる。 後の課題として、調査し残した地点を踏査し、当該地域における「聖蹟」化の実態をさらに明らかにするとともに、次の2点を探るべきだと考えられる。明治天皇聖蹟保存会(東京・文部省内、西郷従徳会長)の活動等についての把握、及び史跡名勝天然紀念物保存法による史蹟指定(文部省による)と「聖蹟」保存との関係。特に聖蹟保存会には『明治天皇行幸年表』『明治天皇聖蹟』等の刊行といった注目すべき調査事業とその公刊がある。これらの点は、昭和初期における「聖蹟」化の実態を全国規模で把握するために是非解明が必要な事柄と言えよう。
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