本研究では、律令国家による地方支配のありかたを、考古資料の分析をとおして読み取ることを目的とし、とくに畿内と東国との関係について考察するために、以下のような基礎資料の収集作業と資料の検討をすすめた。 飛鳥・奈良時代には、畿内産の土師器が東国・西国に多数搬出されるとともに、移動先での定着・在地化も認められる。こうした事例の集成・資料化をはかり、年代・器種・出土量などを検討した。また、「蝦夷」と呼ばれた人々の居住した東北地方・北陸地方東北部の土師器・須恵器の型式学的研究成果を整理し、畿内との年代の併行関係、飛鳥地域・藤原京・平城京への搬入など土器移動の実際を検討した。比較のための基準資料として、飛鳥・藤原地域出土土器の報告例の集成作業をおこない、その成果の一部を「飛鳥・藤原」(古代の土器研究会編『古代の土器4・煮炊具(近畿編)』1996)として発表した。 飛鳥地域では、飛鳥時代の饗宴施設とされる石神遺跡を中心に、東国産と考えられる内面黒色土師器が多数出土し、斉明朝に始まる「蝦夷」の朝貢・饗応との関係が指摘されている。そこで、これらの土器の集成・資料化をはかり年代・器種・出土量など、その実態を把握した。また、宮城県を中心に東北地方で出土した内面黒色土師器の一部と、実際に比較検討をおこなった。次に、文献史料にみられる律令国家の東国経営記事、および蝦夷関連記事の検討、考古資料にみられる「夷」字関係資料の集成、検討をおこなった。以上の成果にもとづいて、飛鳥資料館秋期特別展『斉明紀』の一部を構成し、「斉明朝と蝦夷」(『斉明紀』飛鳥資料館図録第29冊 1996)を執筆した。
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