全国で出土している円筒埴輪・朝顔形埴輪で外面調整に「B種ヨコハケ」をもつもののうち、比較的残存状況の良い個体を抽出して、ハケ工具の静止痕角度・静止痕間隔の計測を行うと共に、その他の属性(凸帯の形状、スカシの形状、基底部の成形技法、内面の調整技法、ハケ工具の種類)についての写真撮影及び観察を行った。計測及び観察を行った個体は、福島県国見町八幡塚古墳、大玉村谷地古墳群、本宮町天王壇古墳、静岡県磐田市堂山古墳、城之崎丸山古墳、愛知県名古屋市一本松古墳、琵琶ケ峯古墳、岐阜県大垣市遊塚古墳、大阪府羽曳野市茶山遺跡、福岡県吉井町塚堂古墳から出土した埴輪である。 計測したデータに基づいて、各個体・各段について、静止痕間隔をX軸、静止痕角度をY軸にとった折れ線グラフを作成した。その折れ線グラフを比較した結果は次のとおりである。 同一個体内での各段の比較を行った結果は、いずれの埴輪も最下段と最上段の様相はそれ以外の段とは全く異なる様相になった。茶山遺跡の埴輪では、最上段と最下段以外の段での様相は細部では異なる部分が多いものの全体としては比較的似通っていた。しかし、その他の古墳の埴輪では段ごとに全く異なる様相を示すものが多かった。このことは畿内の埴輪に限定すれば工人の個性の抽出が可能であるが、その他の地域の埴輪では今回の方法で個性を抽出することは難しいことを示す。裏を返せば、埴輪生産量が少なく熟練した工人の個性でなければ抽出は難しいといえる。異なる個体間での比較を行った結果は、谷地古墳群の2個体や天王壇古墳の2個体、茶山遺跡の2個体は、ハケ工具痕が同じであることや、凸帯、スカシの形状などの属性が似通うことから、グラフの様相が似通えば同一工人の作品と決定することができるが、同一個体内での比較結果と同じく茶山遺跡以外は似通っていなかった。ただ、茶山遺跡の場合も酷似するのではなく辛うじて似る程度であり、工人個性の抽出に関しては今回の方法は改善が必要である結果となった。
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