本研究では、平仮名を含む古文書について、東京大学史料編纂所において影写本による調査を行ったほか、原本調査としては、京都府立総合資料館所蔵東寺百合文書・高山寺所蔵文書・群馬県立文書館所蔵文書について、平仮名字体・用法の調査を行った。それらの調査結果のうち整理済みの部分、及び昨年度までに調査・整理済みのデータを用いて、平仮名史に関する考察を行い、10世紀より13世紀にかけての平仮名字体の変遷の全体像について論文「平安・鎌倉時代における平仮名字体の変遷」(『国語文字史の研究』四・平成9年中に公刊予定)をまとめた。また、特に時代による仮名字体の用法の変化が顕著であるトの平仮名字体について、論文「異体がな使い分けの衰退-トの仮名の場合-」(『山口明穂教授還暦記念 国語学論集』・平成8年)を公にした。現在は、調査資料のうち、14世紀より16世紀にかけてのものについての平仮名字体変遷のデータ整理を行いつつある。 また、片仮名資料については、東京大学史料編纂所所蔵影写体による調査の他、高山寺所蔵聖経類より『却廃忘記』『光言句義釈聴集記』『華巌唯心義巻上』の三点を中心に、その他若干の聖経類・古文書類について調査を行った。そうした資料から、12世紀より16世紀にかけての片仮名文の変遷に関する資料の整理、および同時期に於ける平仮名文との比較対照による、平仮名・片仮名それぞれの文字体系の本質に関する考察を現在進めつつある。
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