研究概要 |
本研究の目的は、英国エリザベス朝・ジェイムズ朝演劇における「ダブル・プロット構造」の審美的意義を、演劇と観客の相互作用の観点から実証的に解明することである。この研究目的に沿って、平成8年度は、英国エリザベス朝・ジェイムズ朝演劇に顕著に見られる複数のプロットの共存現象を、観客の演劇受容意識という枠組みを設定して分析する、という本研究の新しい見方を正当化するために必要な諸前提を、おもにこれまでの研究史を視野に入れながら検証した。本年度の研究によって新しく示された、あるいは確認された知見は、 1,英国エリザベス朝・ジェイムズ朝演劇の「マルティプル・プロット構造」の審美的意匠としての正当性に対する近代批評の非難の歴史は、その原因が、演劇のプロットを構成する出来事の次元における因果論的整合性の欠如にあった、ということ、 2,この出来事の次元における因果論的整合性の欠如はたしかに事実として存在し、この欠如の事態はわれわれの近代演劇的受容意識の観点からしても確かに異常な事態である、ということ、 3,英国エリザベス朝・ジェイムズ朝演劇の観客には、演劇のプロットを構成する出来事の因果論的整合性の次元、あるいはさらに一般的には、演劇で起こる出来事のリアリズム(Realism)あるはミメ-シス(Mimesis)の次元とは異なる、作者の意識的アート(Art)の次元に反応しようとする受容意識があらかじめ備わっていて、まず第一に作者の側のアートに反応しようとするこのような受容意識意識は、近代演劇の受容意識とはかなり異質な受容意識である、ということ、 以上の3点である。
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