研究計画は、1)ロマン主義時代に至るまでの急進主義思想の成立、2)コールリッジによるこの思想の吸収、3)ワーズワ-ス、コールリッジによるロマン主義的急進主義思想の成立、4)他の文学者の動向、5)後期ロマン派におけるロマン主義的急進主義思想、6)総括、の各段階に分かれる。以下に研究結果の概略を示す。 英国十八世紀においては、科学的宇宙観に支えられた進歩主義的楽観論、キリスト教の黙示録思想と予型論、そして非国教派の汎神論思想が、政治的急進主義思想を成立させた。特にその際にユニテリアン派の非公認アカデミーとデイビッド・ハートリーの心理学思想が、思想醸成の場として中心的役割を果たしていた。この急進主義は初期コールリッジと急進的活動家としての初期ワ-ズワ-スによって受け継がれ、1790年代末に『叙情民謡集』という新文学形式の創出という形に昇華された。ここに読書大衆の精神を刷新する革命的文学表現として、ロマン主義的急進主義思想が成立した。同時代の代表的文学者も彼等の思想の支援者として理解することができる。ワ-ズワ-スとコールリッジの先験論的方向を示す中期以降の作品においては、ロマン主義的急進主義の内面化が始まり、この新しい流れは、後にP.B.シェリーの文学論に結実した。また、メアリ-・シェリーの『フランケンシュタイン』は、急進主義の一翼を担った汎神論思想を人間中心の立場から無神論化した所産であることが解明され、この意味からもロマン主義的急進主義思想は、内面化という変容を遂げたロマン派後期においても、文学者達に思想の枠組みを依然として与え続けていたと言える。 併せて、本研究は、哲学思想としての十八、十九世紀の自然科学が担っていた役割の大きさをも明らかとした。次なる課題は、この自然科学の思想性という見地から、ロマン主義時代の思想を再解釈することになるだろう。
|