本研究は日本語とロマンス諸語の統語論及び形態論的相違点がどのような原理によって説明されるのかを解明することを目的とし、特に語順の違いとその他の統語的差異との係わりに着目して進められた。 1 データ収集 日本語とロマンス諸語の語順に関する統語的特性を整理した。 2 データ整理 文法項目毎に例文、注釈をパソコンに入力し、データベースを作成した。 3 データ分析 次の2項目について考察を行った。 (1)語順と複合述語の関係について SOV語順の日本語とSVO語順のロマンス諸語とでは、複合述語構文、特に使役構文と所有構文の振る舞いに違いがある。この類型論的一般化に対し、最小主義の枠組みにおいて、全ての言語はSVOを基底語順とするという仮説と経済性の原理を応用することから原理的な説明が与えられるという成果が得られた。 (2)語順と倒置現象について 日本語、ロマンス諸語各々、広義の意味での倒置現象(語順の変化)が存在する。日本語のかき混ぜ規則、フランス語の複合倒置やイタリア語の自由倒置等がその例である。これらの語順の変化をもたらす規則やプロセスは一律のものではなく、異なる原理に従っている。今回はフランス語の複合倒置現象に着目し、機能範疇がある環境の下、複数照合を許すという特性を持つという仮説を立て、この現象の説明を試みた。
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