アメリカ法における租税回避否認原則の一つといわれる「事業目的原理」について、Gregory事件最高裁判決以降を考察した。Gregory事件は法人分割に関する事件であり、この事件の後、判例法上の原理である事業目的原理を判定法に取り込む形で、法人分割に関する制定法が大幅に改正された。それは、企業が法人事業をどのような形態で遂行していこうと、税法はそれに介入すべきでないという前提に立ちながら、法人分割の形態を利用した租税回避行為に有効に対処するものであった。 イギリスの貴族院がWestminster事件判決で行った解釈方法は、制定法を文言通り厳格に解釈するという「文理解釈」であった。これに対して、Gregory事件においてアメリカの最高裁が行った方法は、制定法の文言を法の目的に合致させるように解釈する「自由解釈」である。複雑な租税回避行為に効果的に対処できるのはアメリカ型の解釈方法である。しかし、この方法では、ここから先は否認されないという意味の「境界線」を決定することは困難である。事業目的原理は法人分割の分野から生まれたが、その後はそれ以外の取引にも一般的に適用される傾向にある。その過程で事業目的原理の内容はだんだん拡張され、なかには「事業目的=租税を軽減する以外の目的」ととらえ、そのような目的を持たない行為には一切の課税上の利益を与えないという解釈すら存在する。この場合、漠然としたこの原理の射程を確定することは非常に困難となる。 わが国が英・米のどちらを模範とすべきかは一概にはいえない。ただ、今のところ、わが国はアメリカほど租税回避行為が横行してはいないので、できるだけ租税法律主義を重視したイギリス法的な対応の方が(どちらかといえば)好ましいようにも思える。現在のイギリス法は、厳格な租税法律主義から脱却して、あらゆる種類の租税回避行為に臨機応変に対処すべく努力している過程にあるといってよい。もっとも、立法論までを視野に入れるならば、アメリカ租税法のポリシ-をわが国は是非参考にすべきである。
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