本研究は、消費者取引における情報提供に関わる問題を、契約法的側面と公法的側面とについて、フランス法と比較対照させながら検討することにより、当事者間の情報提供義務の内容・効果を明らかにすると同時に、消費者が主体的に契約を締結するために必要な環境作りとしての、情報提供の方法を提言することを目的として行なわれた。フランス法との比較研究から、以下のような知見が得られた。まず、契約法的側面では、フランス法における情報提供義務は、現代の高度専門化社会と、それに由来する事業者に対する消費者の信頼を根拠とするため、事業者の消費者に対する情報提供義務は厳格であって、契約内容に関してわが国よりもはるかに高い情報提供義務は課されている。そして、適切な情報を提供していたならば契約が締結されなかったであろう場合には、情報提供義務の違反により事業者の損害賠償責任が生じる(なお、契約的側面に関する研究成果の一部は、すでにジュリスト1094号110頁以下で公表された。)。公法的側面では、フランスでは、行政が消費者に対する情報提供を積極的に行っているのが注目される。例えば、不当条項委員会は、業者が使っている約款に不当な条項な挿入されていないかどうかをチェックするが、不当条項と認められた場合、約款を是正するよう当該業者に勧告するのみならず、なお改善が見られない業者の名前を公表する。また、行政が消費者情報誌の制作に協力し、製品の安全性テストの結果などの情報を掲載した雑誌が書店が販売されている。さらに、消費者に対する啓蒙を促すTVスポットが毎日放映されている。これらの手段により、行政は、業者に直接的規制を加えることなく、多様な情報を消費者に流すことによって消費者が主体的に契約を選択することを可能にしている。このように、適切な情報を提供することによる消費者保護は、わが国でも今後検討されるべきであろう。
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