本研究の主たる目的は社会保障に従事する労働者の雇用実態およびその法的問題を明らかにすることであった。そして、高齢化の進展に伴い、ますますニーズが高まるこの分野の質的量的充実に向けて何らかの示唆を与えることを企図するものであった。実態調査、ヒアリングおよび判例の検討等を通じて、以下のような知見を得ることができた。 第一に、量的には種類の立法、制度改善の結果、相当程度人手不足が解消されていると思われる。これは、とりわけ看護婦において著しい。しかしながら、福祉サービスを提供するスタッフは依然として不足傾向である。しかも、近年の在宅サービスの充実に伴い、より多くの人材供給が必要となってきている。今後、介護保険法が施行されニーズが顕在化したとき、どの程度対応しうるかは大きな課題である。 第二に、このマンパワー不足は、主として二つの問題を生じさせる。一つは、労働者の労働条件に関すること、もう一つは、サービスの受け手の権利に関することである。すなわち、福祉サービスは公的機関を除くと、その多くは中小規模の機関が提供しており、就業規則の未整備等、労使関係が十分に成熟しているとはいえない所が多い。また、仕事の性質上、不規則な労働時間とならざるをえない。特に入所型施設の場合はそうである。これに対しては、法規制が比較的遵守されている。しかし、この不規則な労働時間が、人材難の一因となっていることは否定できないであろう。次に、労働条件の低い分野のサービスの受け手ほど、満足度が低い。マンパワーの雇用環境がサービスの受給者に多大な影響を及ぼすことがうかがわれる。 今後の財源配分において、福祉サービス分野の充実を視点に容れた政策策定が要請されるであろう。
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