研究概要 |
本奨励研究では,資産市場の不完備性が,資産価格,資源配分,所得分配,さらには資本蓄積にどのような経済学的な影響をもたらすのかを分析するための理論的なフレームワークを構築し,その理論モデルを実証的に検証することを試みてきた。特に,人口高齢化の影響を数量的に分析できるように工夫をほどこしている。 まず,理論的なフレームワークとしては,研究者が従来より進めてきた不完備市場下の資産価格決定モデルを発展させてきた。特に,保険市場が不完全なケースについて,分析をいっそう発展させることができた。これらの理論的な成果は,いくつかのinternational journalsで英語論文として発表される予定である。 一方,実証的な研究については,『家計調査』と『全国消費実態調査』の公表データに基づき,消費成長率を年齢効果,コ-ホ-ト効果,マクロ経済効果に分解した結果から,資産市場の不完備性が異時点間や世代間の資産源配分にどのような影響を与えているのかを数量的に解析している。こうした分析は,次年度以降も継続していく予定である。また,『全国消費実態調査』の個票データを用いた先行研究の実証結果を活用しながら,保険市場の不完全性によって世代内の資産分布がどのような影響を受けているのかを計量的に測定している。特に,年齢の上昇に伴って世代内の消費不平等度が高まること,人口高齢化によって消費不平等度の高い世代がそのシェアを高め,経済全体の不平等度も引き上げていることを明らかにしている。これらの実証結果は,大竹・斉藤『日本経済研究』に報告している。 次年度以降も世代内分配と世代間分配について実証研究を積み重ね,両者の側面を統一的に取り扱える理論モデルを構築しながら人口高齢化が経済に与える影響を総合的に評価する枠組みを提出したい。
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