この研究では、寡占市場における公企業と民間企業の競争について、複占モデルを使って分析した。本研究では、公企業の社会的厚生を最大化しようとする行動が、むしろ資源配分を歪め、社会的厚生を下げる可能性があることを明確にし、更にどのような条件の下でこのようなことが起こるのかを明らかにした。 まずはじめに民間企業と公的企業の競争において、戦略的代替関係にある場合について分析した。このケースでは、公企業の社会的厚生を最大化しようとする行動が、社会的厚生を下げることがないための必要条件は、「民間企業の生産量がゼロである」ということがわかった。つまり、現実に民間企業が参入し、公企業と競争している場合には、公企業は民営化されるべきであることを明らかにした。 次に民間企業と公的企業の競争において、戦略的補完関係にある場合について分析した。このケースでは、標準的な仮定の下で、公企業の社会的厚生を最大化しようとする行動が、社会的厚生を下げるための必要条件は「民間企業の生産量がゼロである」ということがわかった。つまり、戦略的代替のケースとは全く逆に、戦略的補完のケースでは、現実に民間企業が参入し、公企業と競争している場合には、公企業は民営化されるべきではないことを明らかにした。 この結論は民営化の是非を論じるためには、民間企業と公企業の競争の形態を詳しく分析することが必要不可欠であることを理論的に明らかにした。 更に、モデルを複占ではなくより一般的な状況に適用するための基礎的な分析を行った。民間企業が複数ある場合にも上記の結論が基本的に当てはまることが明らかになった。
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