本研究は、従来からの企業の個別投資行動理論をより発展させ、自動車産業での直接投資などに代表されるような最近の東南アジア諸国における諸外国からの直接投資行動を分析するための理論的かつ計量経済学的な道具建てを完成させる一連の研究の最初のステップであった。その特徴は、基礎的な経済データの整理と、理論的裏付けのためのデータの解析および既存の投資理論をさらに国際経済学的な観点で拡大させる点である。 理論的分析作業からは、多国籍企業の直接投資に観られるように、為替レートおよび為替レート期待の変動に敏感に反応するような現実の経済での直接投資に合致する投資行動モデルを演繹した。その際、企業成長を考慮した投資行動(宇沢弘文のペンローズ効果)を理論的基礎としてモデルの構築を行った。宇沢モデルには明示的に現れない為替レートのような外的要因が変動することによってペンローズ・カーブが左右にシフトすることから、それぞれのシフトに対応した中期の企業者行動を定義することに成功した。そしてこの中期企業者行動からそれを産業単位にアグリゲイトした中期の景気循環のサイクルを導出することが出来た。 また、理論の裏付けのためのデータの整理・解析という点では、前年度に行われた「平成7年度文部省海外研究開発動向調査等に係る研究者の派遣」事業によって得られた、タイにおける経済データを中心とした収集整理・解析作業を行った。その中でも、タイ国内に大きな経済的効果を生み出している自動車産業に関連した資金、物価、産業連関表等のデータを整理した。その加工されたデータによって、上述した中期の産業別景気循環を検証した。
|