研究概要 |
本研究は,日欧米の労働市場およびマクロ経済の統計的・制度的な検討にもとづいて,失業の発生・継続を説明するための組合モデルを構築した.そして名目賃金率と雇用量の組合間波及の性質およびク-ルノ-均衡での名目賃金率と雇用量にたいするマクロ経済政策の効果を調べた. 名目賃金率の組合間波及にかんする先行研究では,異なる組合の労働者がたがいに粗代替財であるか粗補完財であるかを仮定している.これにたいして本研究では財市場を不完全競争的とし,異なる企業が生産する財がたがいに粗代替財であるか粗補完財であるかを仮定し,名目賃金率や雇用量の組合間波及を説明した.これによって雇用量と名目賃金率を決定する労働組合モデルとして,monopoly union modelだけでなくefficient bargain modelを採用することが可能になった.また組合モデルでのマクロ経済政策の効果はこれまで,名目賃金率や雇用量の組合間波及を考慮せずに検討されてきたが,本研究はこれを明示的に考慮した. 名目賃金率と雇用量の組合間波及にかんして,つぎのことが明らかになった.monopoly union modelでは異なる企業の財がたがいに粗代替財(粗補完財)であれば,異なる組合の名目賃金率は正(負)の相関関係をもつ.いっぽうefficient bargain modelでは財がたがいに粗補完財(粗代替財)であれば,異なる組合の雇用量は正(負)の相関関係をもつ.またマクロ経済政策の効果にかんしては,一括税を減少させるほうが政府支出を増加させるよりも雇用量や生産高を拡大させる可能性が高いことがわかった. 本研究の結果によれば,組合間で賃金が波及する経済では,政府は失業克服のマクロ経済政策として,政府支出の増加よりも一括税の減少を選択すべきである.
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