これまで環境分析用産業連関表に基づく分析は、経済を約400の詳細な部門に分割してきめこまかく行ってきているが、それらはあくまでも日本全国1年間の平均値についての結果であった。そこで今年度は研究内容をより拡張して、月別、地域別のさらにきめの細かい分析を目指した。たとえば月別の分析としては、家計の消費活動と環境負荷との関係を分析するための「環境家計簿」を家計調査年報の集計値に基づいて月別に計算することを試みた。その結果、暖房用燃料消費の多くなる冬季に家計消費が誘発するCO_2排出が大きいのは予想された結果であったが、夏季にも光熱費は極端に少なくなるにもかかわらず、誘発CO_2排出が決して小さくないことがわかった。これは夏季にはレジャー、交通、外食など消費が増えるため、それによるCO_2誘発が光熱費の減少分を相殺してしまうためである。また地域別分析については、工業統計表の情報を補完的に用いることを計画し、今年度は工業統計の4桁産業別都道府県別の詳しいデータについて、事業所分布や生産性格差などの基礎情報の整理を行った。その結果、同じ日本であっても、製造業の生産性やエネルギー投入比率などが地域によって大きく異なることがわかった。 さらに、今年度は中国の産業構造と環境問題の分析についても視野を拡張した。とりわけ古い重化学工業地帯の集中する遼寧省と内陸の経済発展の遅れた四川省をとりあげて、まず「国家統計年鑑」等の公表ベースの統計に基づいて、それら地域の経済と環境状況を分析した。その結果、軽工業や一般家庭における燃焼装置が意外に多くのSO_x汚染を引き起こしていることがわかった。そこでそれらの汚染を軽減するための、有効な解決のシナリオはどのようなものかを探るために、現地当局への調査、日本国内の関連機関へのヒアリング等に着手した。その結果、中国においては効果は90%あるが費用がかかるというような対策よりも、効果は60%だが安価で実現させやすい方法を見つけていかなければならないことがわかった。
|