本研究では、日本の製造業における撤退・縮小行動について、以下のような実証的分析を行った。 まず、日本経済新聞をはじめとする主要紙の記事検索を行い、近年、日本の製造業において大規模な撤退が多数存在することを確認した。業種は様々に分布していた。 次に、「工業統計表」の1983年、1988年、1993年の3桁及び4桁レベルのデータに基づき、(1)撤退・縮小行動の要因、(2)撤退・縮小行動と市場成果の関係について、クロスインダストリーでの回帰分析を行った。分析結果によれば、近年の寡占市場の理論モデルから示唆されるような非効率な撤退の可能性を支持する結果がいくつか得られた。ただし、期間やコントロール変数によっては有意な結果が得られず、インコンクル-シグであった。また、マルチプラントの企業ほど容易に撤退を行うという、理論仮説を支持する結果が得られた。撤退行動の結果として、当記産業のパフォーマンスは向上していなかったが、市場支配力の増大という弊害も認められなかった。産構法をはじめとする調整援助政策の効果は対象期間によって異なっていたが、プロラタ効果の存在を示唆するケースがあった。 本研究は産業レベルのデータを用いた分析という限界があり、今後、企業ないし工場レベルのデータを用いて分析を深めることを考えている。
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