従来輸出指向開発戦略の典型として描き出されてきた「韓国モデル」は、IMF・世界銀行によって支持された成長指向構造調整モデルとしても描き出されるようになり、ベーカー提案のリアリティを支えることになった。問題関心がこのようであったがために、多くの研究が、たとえそれが韓国という一国経済の成長過程を分析しているものであっても、そのなかから現代の発展途上国の発展のための一般論をさぐりだそうとする姿勢にかたよってきたことは否めない。韓国経済の発展の具体的な道程でみのがすことのできない海外出稼ぎ労働の影響についての論考が、これまで、ほとんど見られなかったのは、つまりは、経済発展論のためには「中東特需」のような偶発的な要因はむしろ捨象すべきである、という思考がはたらいたからと見ることができるであろう。 本研究の目的は、韓国の対外債務返済と出稼ぎ労働者送金との相関関係を実証的に分析することによって、従来の研究のギャップを埋めようとするものである。より具体的に言えば、以下のようになる。第一に、韓国の海外出稼ぎ労働がもっとも大きなシェアを占める中東を対象として、中東への出稼ぎ労働の経済的効果を量的質的に具体的に描きだす。中東への出稼ぎ労働の特徴及び規模を明らかにし、その韓国経済へ及ぼした効果をマクロ的に検討する。第二に中東出稼ぎ労働が、韓国経済にどのような影響を及ぼしたのかについて、とりわけ対外債務返済に寄与した役割を総合的な調査を通じ、実証的に解明する。第三に、中東への出稼ぎ労働をどう経済成長に生かしたか、高い債務残高を持っていた韓国が、なぜ債務危機を乗り切ることが可能になったか、そのメカニズムの全貌が明らかにする。 以上のような問題意識を持って、1月には現代アジア研究会で中間報告を行い、そこで参加者からの批判、コメントを参考に現在は最終のまとめの段階に入り、論文として発表できるように作業を進めている。
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